たぬき和尚通信

2016年11月7日 11:51

第5号 臨済禅師、白隠禅師の報恩結集を終えて

臨済禅師、白隠禅師の報恩結集を終えて
建長寺派前総長 高井正俊

平成28年10月29日30日両日にわたって、鎌倉の建長寺で臨済禅師、白隠禅師の1150年忌、250年忌を記念しての大法要が執り行われました。
そして両日にわたり建長寺、円覚寺では約1300人の方々が提唱と坐禅を体験いただきました。

この法要は両禅師に繋がる日本国中の臨済宗、黄檗宗の全寺院をあげてのもので昔風にいえば、禅宗の和尚様方の結集といわれるものです。臨済宗の祖である臨済禅師は中国における禅宗の確立者であり、白隠禅師は日本に到来した禅を江戸期において現在の臨済宗の修業体系を確立された方であります。そして鈴木大拙先生はこの日本の禅を戦中戦後を通じて広く日本内外、特にアメリカに向けて発信をされた方で、今日、禅が瞑想(マインドフルネス)と並んで広く世界の方々に支持される源を作った方であります。その拠点が鎌倉東慶寺内の松ヶ丘文庫であったことも何か不思議な因縁を感ずるものがあります。そしてこの法要が鎌倉建長寺で行わなければいけなかったことをその初期の段階から関わった者の1人として少し説明申し上げます。

禅宗は栄西禅師や道元禅師が日本へ招来したものでありますが、それが禅として受け入れられる為の場所と寺院が必要になってくることは言うまでもありません。この禅に熱い関心を持たれた方が鎌倉幕府五代執権になられた北条時頼公でありました。京都生まれ鎌倉育ち、元寇という東アジアを揺るがす大事が迫り来る世界情勢を肌で感知していた時頼公は日本の国内の諸仏教を学ぶかたわら、当時、アジアの中心であった中国で出来上がっていた禅を日本に導入し、アジア的な規模で世界を見ようとしていたと思います。

初めは道元を頼りますが思いがかなわず、日本に渡来していた中国僧である蘭渓道隆禅師に相見し禅を鎌倉に導入することを決意し建長寺を創建されました。時に建長5年(1253年)の事でありました。日本できちんとした禅を学び広めていく拠点が出来たことになりますし、その後、多くの人の支援を得て建長寺と円覚寺は今でもここに禅を挙揚する場所として存在しています。従来、禅の中心地は京都であり現に今もそうでありますが、日本の禅の源流である鎌倉や建長寺、円覚寺(時頼の子、時宗創建。開山は建長寺第5世無学祖元)に対する視座はあまり強いものではありませんでした。今回この遠諱大事業の中で鎌倉での結集、大法要、そして慶讃の大坐禅会が企図された目的は以上の点にあります。

方広寺以東の禅宗寺院僧侶と臨済宗、黄檗宗の各本山の大々的な協力のもとで行われた本法要が結果として鎌倉、建長寺、円覚寺への新たなる視点を広げその重要性に改めて気づいていただけるなら、この上ない有難いことであります。更に付け加えては鈴木大拙先生への報恩も確認しておく必要があります。大拙先生も本年50回忌をむかえ種々の行事がとり行われました。

そして、今回の事業が大坐禅会実行委員会の形で臨黄合議所の協力を得て関東にある禅宗寺院僧侶の有志のもとで行われた事もとても重要な事でありました。実行委員会の僧侶は老若とりまぜて25人程、臨済禅師、白隠禅師、そして鎌倉での大坐禅会をいかに理解し参加、関心をもっていただけるか、実に様々な手法を使って展開して下さりました。東京六本木ヒルズを使っての大講演会、坐禅体験、写経、禅僧との対話。更にヒルズカフェを使ってのリレートーク、若い和尚様方の登場とマインドフルネスとの関わりなど新しいことへの挑戦。臨黄合議所、実行委員会、建長寺派、円覚寺派、東京臨済会の協力のもとに行われた行事である10月29日、30日の大法要には約300人の禅僧の結集を得ました。円覚寺、横田南嶺老師の提唱、臨済録四料簡を使っての禅修行への現在的にどう取り組むかの提唱は法堂に参集した禅僧に改めて禅を挙唱することの大事さを教えて下さいました。大法要では建長寺、吉田正道管長による法要導師、そして香語を得て並みいる禅僧たちが今回の法要の意義と伝承に目覚めたことはいうまでもありません。

大座禅会では建長寺、円覚寺で横田南嶺老師、酒井泰玄建長寺僧堂師家、松竹寛山平林寺僧堂師家、後藤榮山龍澤寺僧堂師家の提唱そして坐禅会が行われました。両日にわたって建長寺、円覚寺では創建以来初めての本来的な禅を発現する場所になることが出来ました。この事が臨済禅師、白隠禅師、鈴木大拙先生への報恩になったことはいうまでもありません。そして、この行事を通じて気づいた事が新たなる禅布教へのスタート(対社会全般、各寺院がうけもっている地域との関わり、僧侶同士の研鑽と連帯)になるであろうことに実に有意義で有り難いことを感ずるものであります。望みうることならば、この事業を通じて学んだことを更に一歩進め、これからの禅の布教に繋げていただくと有難いと思います。

○参考として東京湯島麟祥禅院にて(月1回おこなわれている)小川隆先生の「臨済録を読む会」は今回の臨済禅師1150年を期して始められた勉強会です。禅僧であればどなたでも参加できます。
問い合せは、東京禅センター(龍雲寺)03-5779-3800になります。
参加して臨済禅師の語録から多くのものを学んでいきましょう。

●東京湯島麟祥禅院のサイトはこちら

●東京禅センター(龍雲寺)のサイトはこちら

○東京国立博物館で「禅―心をかたちに―」展覧会も開かれています。是非お出かけ下さい。11月27日までです(月曜休館)

●東京国立博物館で「禅―心をかたちに―」特別展の詳細はこちら